高音質ハイレゾ名盤

2017年7月7日

ウインナ・ワルツの見事な「間」を体験!

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古き良き時代のウィーンが香る優雅なワルツ、これまで聴こえてこなかった細部までハイレゾが再現
『ウィーンの休日』ハンス・クナッパーツブッシュ指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

「会議は踊る。されどすすまず」とは1814~15年にかけて、ナポレオン戦争後のヨーロッパの秩序を決めた国際会議、ウィーン会議で語られた言葉である。ヨーロッパ各国の思惑がからみ、会議は進展せず、いたずらに、夜会のワルツだけが盛り上がったという意味である。現代のイギリスが抜けることで大騒ぎになったEUの騒動と似ていなくもない。それ以降、ヨーロッパの秩序はいつ戦乱がおきても不思議でない不穏な空気に包まれていたが、ウィーンでの舞踏会はますます隆盛を極めていく。

そんな折、ウィーンの守護にあたる第84歩兵連隊軍楽隊隊長に推挙された男がいた。その名はコムツァークⅡ世(カレル・コムツァーク/1850年プラハ生まれ~1905年ウィーン近郊バーデンで死去)。コムツァークは、彼の父、そして、子と3代にわたって軍楽隊の隊長をつとめる家柄だったが、軍楽隊にはじめて16人ものバイオリンを加えたことで有名になった。

そのコムツァークⅡ世が、1898年に作曲したのが「バーデン娘」作品番号257のワルツだった。「バーデン娘」のバーデンとは、ウィーンの南西約23kmにある温泉保養地を指している。この曲は彼の代表作となったが、めったに演奏されないことでも知られている。

トラック2に収録されている「バーデン娘」は、小太鼓のリズムとともに始まる。一転してバイオリンの甘いメロディーのワルツに包まれる。重々しい金管楽器も加わって、古き舞踏会を思わせる、ゆったりとしたワルツが優雅に繰り広げられる。5:05とその繰り返しの7:18にトロンボーンが突然のようにストップをかけるところから、ワルツのテンポは遅くなったかと思うと、今度は速くなったりと、緩急がついてさらに盛り上がっていく。8:16で絶頂を迎え、人々がワルツに酔いしれるのを感じ取ることができるかのようだ。

ワルツは3拍子のリズムからなる踊りの曲。よく聴いてみると、3つの拍は均等の「タン・タ・タ」ではなくて、2拍目がやや前につまっており、「タ・タッタ」と聴こえてくる。これこそ、ウィーン節のワルツなのだと思う。

この「バーデン娘」を含むアルバム『ウィーンの休日』。収められている曲はウィーンを代表するワルツやポルカばかり8曲。「アンネン・ポルカ」、「加速度ワルツ」、ポルカ「浮気心」、ワルツ「ウィーンの森の物語」・・・。演奏しているのは、ハンス・クナッパーツブッシュ(1888~1965年)が指揮するウィーン・フィルハーモニー管弦楽団である。

大胆に緩急をつけたテンポ、そして思わぬところでみせる「間」とともに大きくワルツの輪が広がってくる楽しみ、これこそ、19世紀のウィーンで踊られていたワルツを感じさせるものである。それもそのはずで、演奏するウィーン・フィルが誕生したのは1842年、指揮者クナッパーツブッシュが生まれたのは1888年。つまり19世紀なのである。まだウィーンにワルツが生きていた時代の息吹きそのものを受け継いでいるのである。

以前、『FMレコパル』のオーディオの相談役であった若林駿介氏は、正月のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートのために前年末に行われるリハーサルを、出演するメンバーの好意で聴かせて貰ったことがあったそうだ。その回のニューイヤー・コンサートを指揮するはずのある指揮者が、飛行機の遅延でリハーサルに間に合わず、しかたがないので、ウィーン・フィルのメンバーだけでリハーサルが始まった。そのときのウィーン・フィルは、自家薬籠中のウインナ・ワルツを実に楽しそうに、優雅なゆっくりとしたテンポで、悠然と演奏していたのだという。そして指揮者が現れ、タクトを振り始めると、「現代の、小気味はよいが、ややせせこましいテンポに戻ってしまって惜しいことをした」と若林氏は少し悔しそうだった。 

若林氏の古くからの友人で1年以上も日本滞在を経験していたウィーン・フィルの元楽団長でセカンド・バイオリンのウィルヘルム・ヒューブナー氏によれば、「ウィーン・フィルにとってのウインナ・ワルツは、ちょうど、日本で言えば『ソーラン節』を盆踊りで踊るのと似ていて、もう、理屈抜きで自分のものになっているのですよ」とのことだった。これは、絶妙な「間」こそ、ウィーン・フィルのもっている生来の音楽なのだということである。

そのヒューブナー氏は、ウィーン・フィルの黄金時代ともいえる1950年代を共に過ごしたクナッパーツブッシュの指揮するウィーン・フィルの演奏会の写真を大事そうに見せてくれた。自分もメンバーのひとりとして彼の指揮を体験していたのだった。ウィーン・フィルのメンバーは彼に一目も二目もおいており、指揮棒のほんの少しの動きもおろそかにしないよう、その一挙手一投足にぴたりとつけていた。思い出が詰まった指揮者と、当時のことを思い出し、そう語ってくれた。

ウインナ・ワルツをよく知る指揮者、オーケストラ、そして、いつもそれが演奏されていた、ウィーンの舞踏会の会場に使われていたウィーン・ゾフィエンザールでの1957年10月15、16日の演奏である。

優雅なワルツに19世紀、古き良き時代のウィーンの香りを感じ、気分にひたるのも一興である。このイギリス・デッカ・レーベルによる古いアナログ録音は、昔から名盤の誉れが高かったが、デッカのアナログ・マスターからイギリス・クラシックサウンドというラボにて、2016年最新DSDマスターが制作され、ハイレゾ音源として甦った。特にトラック2の「バーデン娘」では、鮮度の高さ、そして、ワルツが始まる一瞬一瞬の「間」、突然のようにわき上がる金管楽器の高鳴りなど、これまで聴こえてこなかった細部が見事に聴こえワクワク感がみなぎってくる。

 

(文/野村和寿)

雑誌編集者を長くつとめ、現在は校閲者。1975年にカール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本公演のブラームス交響曲第1番の最終楽章で、鳥肌が立ち、帰り道をさまよった経験を持つ。爾来、クラシックを生涯の友として過ごしてきた。編集者時代、クラシック以外のロックやジャズといったジャンルのアーティストと交流を深めるうちに、クラシックと、楽しさにおいて何も変わらないことに確信を持つ。以来、ジャンルを取り払って、SP盤からハイレゾまで、未知なる音の発見の喜びを日々捜している。また無類の古いカメラ好きでもあり、特にドイツの光学製品に魅せられ、ライカとそのレンズの蒐集に執念を燃やしている。

 

 

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