高音質ハイレゾ名盤

2017年7月5日

長年の訴訟問題を経て発表された転機の1作

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MHCP00724_FJ014089生活者の孤独や絶望、希望など、すべてが込められた詞世界を具現化する闇の奥から鳴るような深いサウンド。
ブルース・スプリングスティーン『闇に吠える街』

ワーキングクラス・ヒーロー。デビュー以来、スーパースターになった今でもブルース・スプリングスティーンは、実生活も含めてこのスタイルを守り続けている。ジョン・レノンは生前、自分も本当はスプリングスティーンのような存在になりたかったと語っていた。ザ・ビートルズという伝説がその希望を奪ったとも言える。

1975年、3作目に当たる『明日なき暴走』でスプリングスティーンとEストリート・バンドは、1970年代ロックの救世主となった。売れないミュージシャンから、スーパースターの卵となったスプリングスティーンを待っていたのは、マネージャーのマイク・アペルとのトラブルだった。売れるようになって、スプリングスティーンは、アルバム全体の売り上げから自分の取り分が3.5%なのに対し、マイク・アペルには14%支払われる契約である事実を知る。その上、マイク・アペルは『明日なき暴走』の成功の立役者である音楽評論家出身のジョン・ランドウを次作のプロデューサーに起用させないと法的に通告した。

アーティストとかつては育ての親だと信じていたマネージャーとの闘争は、長い裁判となった。1977年5月、裁判は決着し、マイク・アペルは金を手にし、スプリングスティーンは好きなマネージメントを選び、自分の行動は一切、自分で決められる権利を手にした。

6月に入ってすぐにスプリングスティーンは、ジョン・ランドウ、Eストリート・バンドの面々とマンハッタンのアトランティック・スタジオに入った。ようやく本作のレコーディングが始まった。スプリングスティーン、27歳の夏の始まりだった。

ブルース・スプリングスティーンを売れていないデビュー時から聴き続け、そのサウンドはもちろん、歌詞に込められた生活者の時代を生きる声をリアルタイムに受け止めてきたぼくにとっては、『闇に吠える街』は大傑作であると同時に、その後の彼の更なる飛躍のジャンプ台となったアルバムだと位置づけている。

数あるスプリングスティーンのアルバムの中でも、これほど普通に生きる人々の視点に立ったアルバムは無いだろう。このアルバムの楽曲の中には、アメリカで普通に働き、生活する人々の孤独、絶望、希望などがすべて込められている。80年代の『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』などから比べると、サウンド的には地味に感じられるかもしれないが、ここに歌われる世界を表現するには、このややダークとも思われるトーンがふさわしく、必要とされていたことは、長年のファンなら理解できるだろう。『明日なき暴走』~3年間の空白~暗いトーンの本作。この流れがなかったら、現在のブルース・スプリングスティーンは無かったのかもしれない。

“Darkness On The Edge Of Town”という原題のイメージに即したように、そのサウンドは、闇の奥から鳴っているように深い。名曲「レーシング・イン・ザ・ストリート」を聴くとそれがよく分かる。サウンド優先でなく、詞が作り上げる小説や映画のような世界を表現するためにサウンドが存在しているのだ。後にスティーヴィー・ニックスやトム・ペティをプロデュースする大物となった若き日のジミー・アイオヴィンがエンジニアリングを担当。スプリングスティーンの要求を具現化した音世界を生み出している。

CDに比べてハイレゾ音源が優れているのは、この街の闇から生まれたような音色をより深く表現できている点だ。マックス・ウェインバーグの叩くドラムス、ゲイリー・タレントの弾くベース。この両者が鳴らす低域の量感と闇から鳴ってくるイメージをハイレゾ音源はマスターテープに近いと思える鳴り方にしてくれる。ブルース・スプリングスティーンでしか、このアルバムでしか聴けない、ロック史に残る名サウンドと思う。

 

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

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