高音質ハイレゾ名盤

2017年6月21日

ピンクフロイドの頭脳25年ぶりとなる新作

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不安感や絶望に包まれる世界、社会や政治への“怒り”をストレートに放つメッセージアルバム
ロジャー・ウォーターズ『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント』

この9月6日で74歳になるロジャー・ウォーターズ。ピンク・フロイドは実質的に解散させたが、デビュー50周年に当たる記念すべき年に25年ぶりのソロ・アルバムを発表した。

ソロ前作、1992年の『死烕遊戯』は第1次湾岸戦争の最中、混迷極まる世界情勢を背景にTV社会に警鐘を鳴らしたアルバムだった。空爆がほぼリアルタイムでまるでTVゲームのように映し出される世界への違和感がストレートに表現されていた。

今作のタイトル、“Is This The Life We Really Want?”を直訳すると“これは私たちが本当に望んだ人生なのだろうか?”となる。この時代、世界を不安感や絶望が包み、戦争、紛争、テロ、危機、差別、環境、社会、政治などに怒りを込めた攻撃なメッセージ・アルバムとなっている。歌詞がストレートで“最後の難民”、“偵察機能付き無人飛行機”、“サブプライム・ローン”、“捕虜になり見放されたジャーナリスト”、“大馬鹿者が大統領に就任する”などといった言葉が散りばめられている。

圧巻なのは、この世界を暗示するように唐突に曲が終わるラストチューン、「パート・オブ・ミー・ダイド」の次のフレーズだ。“部屋の隅に座りTVを観ている。苦痛を訴える子供たちの声に真剣に耳を傾けることもなく、世界で起きていることを気にも留めず、ひとり、ゲームを楽しんでいる。何度も繰り返し同じものを見て、それでもすぐに忘れてしまう。沈黙、無関心、それ以上の罪はない”。これこそロジャー・ウォーターズの心から言いたかったことであり、怒りだろう。ピンク・フロイドの傑作で、無能な政治家たちに怒りを発露した『アニマルズ』以上の強力なメッセージ・アルバムだ。

プロデュースは、レディオヘッド、ベック、ポール・マッカートニー、U2などを手掛けてきたナイジェル・ゴッドリッチが担当。プロデュースのみでなく、エンジニアリング、バック・メンバーとしてキーボードやギターも演奏している。

アルバムのサウンドは、これまでのソロやピンク・フロイドに通じるものがある。SEやストリングスを大幅に取り入れたサウンド・コラージュが随所で聴ける、“ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズ”らしいものだ。「ピクチャー・ザット」にはかつての名曲「吹けよ風、呼べよ嵐」を思い起こさせる部分もある。シングル化された「スメル・ザ・ローゼズ」は「葉巻はいかが」に近い雰囲気がある。ロジャー・ウォーターズがピンク・フロイドの頭脳だったこと、彼らのメッセージ性の中心にロジャー・ウォーターズが居たことを改めて感じさせてくれる。

ハイレゾ音源は、CDよりも優れていて、ピンク・フロイド及び過去のソロ作品を踏襲しながらも、より深味があり、エッジを効かせた作品であることが伝わる。ロジャー・ウォーターズのアコースティック・ギター、ジョーイ・ワロンカーの叩くドラムスの音などにこれまで以上のエッジが感じられる。ストリングスの響きもCDよりハイレゾ音源の方が、リアル感が増している。サウンド・コラージュの部分などはCDとハイレゾ音源の差は少ないが、個々の楽器の響き方がハイレゾ音源だと素直に伝わってくるのだ。ロジャー・ウォーターズの語りに近い説得力の高いヴォーカルもハイレゾ音源だとマイクの存在が薄くなり、リアリティが高い。ロジャー・ウォーターズ及びピンク・フロイドの音質が好きな方にとっては、絶対にハイレゾ音源だろう。

ただ、ハイレゾ音源には歌詞が付いてこない。このアルバムでもっとも重要なのは歌詞だと思う。ハイレゾ音源にもせめて日本語訳詞くらいは付けてほしかった。マスコミの自由度が先進国の中では、ほぼ最下位となってしまった日本では、絶対に発売がメジャーでは認められないアルバムだろう。だから、歌詞が重要なのだ。

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

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