高音質ハイレゾ名盤

2017年6月14日

名曲を多数含む生々しいサウンドの名盤

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オーヴァーダビングの少ないライブ感あふれるサウンド、そのリアリティが1曲目を聴いた瞬間に伝わってくる。
ザ・バンド『南十字星』

かつて、ザ・バンドのライヴを観たミック・ジャガーは、感想を訊ねられて“レコードと同じだった”と短く答えた。このコメントは、ザ・バンドはレコードと同じライヴらしくない演奏でつまらなかったと誤解を生んだ。しかしミック・ジャガーが後に“レコードと同じ演奏をライヴでできるのは凄いことで、自分たちには不可能な素晴らしいライヴだった”とコメントし、誤解を解いた。

メンバーのうち、アーカンソー州出身のリヴォン・ヘルムを除くと、後の4人、ロビー・ロバートソン、リチャード・マニュエル、ガース・ハドソン、リック・ダンコはすべてカナダ人である。リヴォン・ヘルムは、1956年にアーカンソー州でバンドを組んで活動を始めた。やがてバンドは、ロックン・ローラー、ロニー・ホーキンスのバックを務める機会を得た。リヴォン・ヘルムはこれをきっかけにしてロニー・ホーキンスのバック・バンド、ホークスに加入。1960年、カナダのトロントにロニーが活動の拠点を移した。

リヴォン以外のアメリカ人メンバーが脱退し、ロビー・ロバートソン、リチャード・マニュエル、ガース・ハドソン、リック・ダンコの4人が現地で加入した。1963年、ホークスはロニーと別れ、アメリカの東海岸でライヴを始めた。

この時代、ビリー・ホリディ、ボブ・ディラン、アレサ・フランクリンなどを世に送り出したジョン・ハモンドの息子で、ミュージシャンのジョン・ハモンドJrと出逢う。彼の紹介でホークスは、フォークからロックに転じようとしていたボブ・ディランと出逢った。バンド名もザ・バンドと改め、ディランのバックで名を上げる。

そして、オートバイ事故で一時的にシーンから遠のいていたボブ・ディランのウッドストックにある隠れ家=ビッグ・ピンクと呼ばれた家の地下で、デビュー・アルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』をレコーディング、1968年に発表する。キャリアは充分なのにデビューに8年かかっている。ロビー・ロバートソンが抜けると宣言し、解散したのは1976年。下積み8年、メジャーで8年というバンド・ライフだった。

ライヴを含めるとロビー・ロバートソン在籍時のザ・バンドは、8枚のアルバムを残した(ベスト盤は除く)。『南十字星』は、1975年発表の7作目に当たる。前作『ムーンドッグ・マチネー』が、彼らが影響を受けた曲のカヴァー・アルバムだったので、オリジナルとしては4年振りの作品だった。

レコーディングは、24チャンネル・レコーダーで行なわれた。彼ららしいライヴっぽい、生々しいサウンドは、オーヴァーダビングが少ないからだ。例えば、「禁断の木の実」、「オフェリア」、「同じことさ!」などのギターは、オーヴァー・ダヴィングでない、バンド全体がいっせいに演奏したファースト・テイクが使われている。全9曲、ロビー・ロバートソンの作曲だが、曲調は変化に富んでいる。「オフェリア」、「アケイディアの流木」、「おんぼろ人生」はギターで作られ、それ以外はピアノで作られている。曲ごとのコード感の異なる感じは、そういった理由による。

CDは2001年にリマスタリング盤が出ている。それとハイレゾ音源を比較すると、ドラムスの音が一番違う。リヴォン・ヘルムのドラムスは独特の叩き方の上にチューニングにも特徴があり、それがザ・バンドの音楽のボトムとなっている。スティックがスネアやタムに当たって、音が発せられているリアリティが、ハイレゾ音源は優れている。1曲目の「禁断の木の実」を流した瞬間、それが伝わってくる。彼らの歴史の中でも名曲として知られる「オフェリア」、「アケイディアの流木」、「同じことさ!」の3曲は、アナログLPよりも音のくぐもり感が少ないかもしれない。リヴォン、リチャード、リックの3人はすでにこの世を去った。だが彼らの名演はこの名盤の中で永遠に生き続けるだろう。

 

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

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