高音質ハイレゾ名盤

2017年6月7日

ホテルカリフォルニアと表裏一体を成す名作

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70年代 西海岸ロックの中でも最高の良音、実質上のラストアルバムとなった1枚
イーグルス『ロング・ラン』

グレン・フライが亡くなったことによって、彼のいるイーグルスの来日公演は永遠の幻となってしまった。ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・フーなどを手掛けたグリン・ジョーンズのプロデュースにより、『イーグルス・ファースト』で彼らがデビューしたのは、1972年。メンバー・チェンジを重ねながら、1976年の5作目『ホテル・カリフォルニア』で歴史に残る名グループとなった。

しかし、この『ホテル・カリフォルニア』の大ヒットはメンバーに多大なプレッシャーを与えた。初期のカントリーロック・バンドではなく、社会へのメッセージ性も高いバンドと人々は受け止め始めた。メンバーは次作の制作に悩み、ランディ・ニューマン、ボブ・シーガー、ジョニ・ミッチェルなどに参加するバンド活動以外の行動が目立つようになった。

しかし、ファンの要望、レコード会社との契約問題もあり、彼らはこの『ロング・ラン』の制作に入らねばならなかった。2年の時間と100万ドルを超える制作費が使われ、アルバムはようやく完成。本来だったら『ホテル・カリフォルニア』で力尽きたはずなのに、バンドは恐るべき底力を発揮した。アルバムは全米チャートで9週連続No.1となり、「ロング・ラン」、ティモシー・B.シュミットの歌う「言いだせなくて」、「ハートエイク・トゥナイト」がシングル・ヒットした。

それでもやはりバンドは力尽き、ライヴ・アルバム『イーグルス・ライヴ』を発表後、1982年5月に正式な解散に至る。1994年に再結成するまで長い休暇に入ってしまったのだ。

しかし本作は、『ホテル・カリフォルニア』の燃えかすでは決してない。イーグルスというバンドがいかに優れていたかは、ひとつひとつの楽曲の完成度の高さを聴けばわかる。そして後期のイーグルスを支えたビル・シムジクの高いプロデュース能力と録音技術は、1970年代西海岸ロックでも最高の良音を残した。

個人的に思い出すのは「ハートエイク・トゥナイト」のイントロのドラムスの音だ。このアルバム発売時、ぼくはJBLの075、375、D-130で大型スピーカー・システムを組んでいた。ところが、イントロのドラムスの音は音圧が高すぎてバランス良く鳴ってくれなかったのだ。この部分を気持ち良く鳴らすためにスピーカー、プリ/パワー・アンプをすべて買い換えねばならなかったのを思い出す。

現代のオーディオでもこのイントロのドラムスの部分を想定できるオリジナル・アナログ・マスターの音に近い形で鳴らせるシステムは少ないだろう。ハイレゾ音源はかなりアナログ・ディスクに近い質の再生ができる。改めてこの部分の再生の難しさを確認した。単にドラムが鳴っているだけを再現するなら、どんなシステムでも可能だ。昔、行ったことのあるロサンゼルスのレコード・プラント・スタジオで鳴っているドラムスと同じ音に再生するのが難しいのだ。イーグルスはドラムの皮をゆるく張る傾向にあるのだが、その音の質はなかなか再生しにくい。

イーグルスの最初のロード・マネージャー、ジョン・バーリックに捧げたラスト・ナンバー「サッド・カフェ」も忘れ難い。アルバムを締めるだけでなく、イーグルスというバンドの歴史を締めくくる曲だ。“僕たちは愛とか自由とかいう言葉で世界を変えられると思っていたが、結局サッド・カフェに集まった一団に過ぎなかった”という歌詞は、その後の湾岸戦争、ニューヨーク・テロさえ予見していたかのようだ。ドン・ヘンリーの歌が終わると名手デヴィッド・サンボーンの物悲しい長いサックスが、曲終わりまで続く。ハイレゾ音源は、リマスタリングCDより、かなり濃密かつ表情豊かにこの部分を聴かせてくれた。音楽への魂の込もり具合いが、ワンランク・アップしたのがハイレゾ音源の音といえる。『ホテル・カリフォルニア』と表裏一体を成す名作である。

 

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

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