高音質ハイレゾ名盤

2017年6月2日

ピアノとオケの華麗な響きを堪能できる名曲

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子どもが弾くようにまじりけのないモーツァルト
「モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番ハ長調 K.503」
ピアノ:アルフレッド・ブレンデル サー・チャールズ・マッケラス指揮/スコティッシュ室内管弦楽団

2017年5月フランスに新大統領が誕生した。エマニュエル・マクロン 弱冠39歳。マクロンが、2012年オランド政権の経済顧問に抜擢されたとき、彼を顧問に推薦した思想家のジャック・アタリ氏は、彼のことを、「財務のモーツァルト」と評した。まだ若いが誰よりも財務に長けている。という意味で「モーツァルト」という人物になぞらえたのだった。

ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791年)は、まだ3歳のときにチェンバロを弾き、5歳で作曲を始め、6歳のときに女帝マリア・テレジアの御前で演奏を披露した。評判はまたたく間にヨーロッパ中に広がり、生まれ故郷ザルツブルク(現在のオーストリア)を出発点に、ミュンヘン、ウィーン、パリと、ヨーロッパ中を音楽家であり教育者だった父と共に旅して回った。35年の人生のうちで、彼が旅をした時間は人生の3分の1ほどもあったという。

モーツァルトの作曲した900にも及ぶ音楽のなかでも、どこまでも希望に満ちあふれているのがピアノ協奏曲と呼ばれるジャンル。オーケストラと独奏ピアノが、あるときは強調し合い、あるときは丁々発止と競い合って紡ぎ出す途方もない美しさ。今回はなかでもウィーン時代の1786年、モーツァルト30歳の時に作曲されたピアノ協奏曲第25番をご紹介したいと思う。

今回の独奏ピアノを弾くのは、モーツァルトならこの人ありといわれるピアニスト、アルフレッド・ブレンデル(1931~)である。

私は1997年5月にチェコの「プラハの春音楽祭」で、ブレンデルの弾くモーツァルトのピアノ協奏曲を聴いたことがあった。ブレンデルというピアニストは、現在ではウィーンのピアニストということになっているが、生まれはチェコ、両親と暮らしたのは現在のクロアチアである。なぜ、ブレンデルが、チェコのプラハで演奏会の独奏者になったのかといえば、彼がチェコの生まれということもあってのことだと思う。今回ご紹介する協奏曲の1曲前のピアノ協奏曲第24番K.491の演奏だった。

当時の私の演奏会後の日記を抜粋してみると「冒頭は、前もって少しもオーケストラと合わせる練習をした形跡がないくらい、オーケストラとソリストとでテンポが違っていたので、両者はまるで戦っているようだった。でも、それが協奏曲というのものなのだろうか。ゆっくりの楽章をブレンデルはピアノのキーを単に叩くのではなくて、一音一音確かめるように、それも慈しむようにピアノに触れていく。全体のテンポを指揮者ではなくソロのピアノが決めていたのもいいのかもしれない。ブレンデルの弾くピアノの旋律は素朴そのもの。ただかっこうをつけているだけの普通の演奏とは明らかに違った。対するオーケストラの木管楽器群は、独奏ピアノのテンポを聴いて反芻するかのようにサポートしていく。だんだんと、お互いのテンポがぴしっと合ってきて、ピアノの流れの続きを木管楽器でやるがごとく、渾然一体となっていた」(1997年5月16日 プラハの春音楽祭 モーツァルト「ピアノ協奏曲第24番」独奏:アルフレッド・ブレンデル コリン・デイビス指揮/ロンドン交響楽団 スメタナホールにて)

ブレンデルが虚飾を排し、朴訥なまでに一途にモーツァルトを紡ぎ出した姿勢に、聴いた私はまさに目から鱗が落ちた思いがした。

今回のピアノ協奏曲第25番は、全体に漂う華麗で天衣無縫でゴージャスなピアノとオーケストラの響きを堪能できる名曲中の名曲。全部で3つの楽章から成っている。目の覚めるような明るさの第1楽章、ゆっくりしみじみとした第2楽章は夢見心地、第3楽章のクライマックスに向かって輝きを発し続ける。ハイレゾでの聴き所は、第1楽章(トラック4)の6:44あたりから始まるピアノ・ソロの快活に駆け上るようなメロディー、オーケストラはピアノに促されるように、駆け上がり上昇を始めていく。清々しさは、ハイレゾで聴くとなお一層はっきりと聴こえてくる。

このピアノとオーケストラとのコラボレーションは、再び10:45あたりに登場してくる。12:41あたりからのカデンツァ(ピアノがモーツァルトのテーマを自由に即興的に弾くという部分)にさしかかると、ブレンデルの真骨頂が現れる。ブレンデルはあたかも、子どもが弾いているかのようにまじりけのない音でモーツァルトを紡いでいく。第3楽章(トラック6)に入ると、0:48あたりからブレンデルのピアノはますます冴えをみせ、コロコロと鍵盤上をころがるかのように自由に動き回る。そこにオーケストラの木管楽器であるフルートが登場し、絶妙な掛け合いをみせる。

ちなみに、モーツァルトの作品を整理して番号をつけたケッヘル番号でいえば、本曲がケッヘル(K.)番号503、続く504は交響曲第38番『プラハ』である。「私がブレンデルの演奏するモーツァルトをプラハで聴いた」ということと、「モーツァルトが次の曲に『プラハ』という交響曲を作曲していたという事実」とが、私の音楽体験の中で、プラハというヨーロッパの都市とともに少し重なりをみせていて、なんだかその因縁めいた所がうれしい。モーツァルトはいつ聴いても本当に愛らしく美しい。

 

(文/野村和寿)

雑誌編集者を長くつとめ、現在は校閲者。1975年にカール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本公演のブラームス交響曲第1番の最終楽章で、鳥肌が立ち、帰り道をさまよった経験を持つ。爾来、クラシックを生涯の友として過ごしてきた。編集者時代、クラシック以外のロックやジャズといったジャンルのアーティストと交流を深めるうちに、クラシックと、楽しさにおいて何も変わらないことに確信を持つ。以来、ジャンルを取り払って、SP盤からハイレゾまで、未知なる音の発見の喜びを日々捜している。また無類の古いカメラ好きでもあり、特にドイツの光学製品に魅せられ、ライカとそのレンズの蒐集に執念を燃やしている。

 

 

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