高音質ハイレゾ名盤

2017年4月12日

通称“ゆでめん”のファースト・アルバム

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はっぴいえんど

「はっぴいえんど」はっぴいえんど ポニーキャニオン 発売中


1970年代初期日本のアナログ録音技術の素晴らしさが伝わる1枚
はっぴいえんど『はっぴいえんど』

現代の音楽ファンには想像しにくいだろうが、はっぴいえんどがこのファースト・アルバム『はっぴいえんど』(ジャケット・デザインから“ゆでめん”の愛称で親しまれる)を発表した1970年代初期の日本の音楽シーンでは、“ロックは日本語で歌うべきか、英語で歌われるべきか”という問題が、音楽誌などで真剣に議論されていた。

英語歌唱派の筆頭は、内田裕也率いるフラワー・トラヴェリン・バンドで、カナダ録音、現地のチャートでヒットするなど実績があった。日本語歌唱派は、はっぴいえんど、頭脳警察に代表された。

そもそも、ザ・スパイダースは1966年の『ザ・スパイダース・アルバムNo.1』でロックを日本語歌詞で歌っていたし、はっぴいえんどに影響を与えた早川義夫率いるジャックスも、1968年の『ジャックスの世界』でロックを日本語で歌っていた。

J-POPシーンからすると信じられない話だが、また、それが世の中を二分するというわけではなく、強烈な日本人ロック・ファンの間だけの議論であった。後のJ-POPに通じる日本のロックは、あまりにもマーケットが小さかった。売れても、せいぜい2,000枚程度。現代ならインディー・バンドでも売り上げられるセールス状況だったのだ。

はっぴいえんどは、エイプリルフールに端を発する。方向性の違いから解散してしまったエイプリルフールの細野晴臣と松本隆は、親交のあった大瀧詠一(当時の表記)を誘い、バレンタイン・ブルーを組む。そこにまだ10代だった天才ギタリスト鈴木茂が加わり、はっぴいえんどが誕生した。

バッファロー・スプリングフィールドやキャット・スティーヴンス、モビー・グレイプなどに影響を受けつつ、歌詞は松本隆による日本語詞。当時の欧米のロック・シーンは、ハード・ロック、ブルーズ・ロック、プログレッシヴ・ロックなどが主流だったが、どちらかというと、その後、盛んになるシンガー・ソングライター・サウンドを先取りしたフォーク・ロック味の演奏は、日本語ロックのバンドの中でも異色であった。

もうひとつの日本語ロック・バンドの代表、頭脳警察と関わりが深く、メンバーにならないかと誘われたこともある筆者は、はっぴいえんども好きで、日比谷の野外音楽堂から始まって解散コンサートまで、何度もライヴを観た。当時多かった、観客を煽るタイプのライヴ・パフォーマンスではなく、じっくりと演奏を聴かせるバンドだった。まだ10代だった矢野顕子が、アディショナル・ピアニストとしてバンドに加わったステージも観ている。

はっぴいえんどの初期2枚(以前、紹介したセカンド・アルバム『風街ろまん』と本作)は、所属したURCレコードの何度かのメジャー・レコード移籍のたびにCDがリマスタリング化されてきた。現存するリマスタリングCDで最良といえるのは、2014年12月に発売されたファーストとセカンド・アルバムのCD、新たにロンドンのメトロポリス・スタジオにて通常のカッティングより音質の良いハーフスピード・カッティングされた同アナログLP、それにハイレゾ音源のダウンロード権が付いた『はっぴいえんどマスターピース』だろう。このセットのアナログLPは素晴らしく、それなりのオーディオ装置で再生すれば、ハイレゾ音源を上回る音質を得られる。ハイレゾ音源は、わりと簡易にこのアルバムのアナログならではの音質を楽しめる。

代表曲のひとつ「春よ来い」の行間から溢れ出る抒情、若さが生む意欲、情熱が、ハイレゾ音源だとCDより一層、瑞々しく鳴ってくれる。1970年代初期の日本のアナログ録音技術が、欧米のバンドの録音に比べて勝るとも劣らないことが伝わる。「敵タナトスを想起せよ!」(今では考えられないタイトル!)のグルーヴ感は、このバンドが、演ろうと思えば強力なロックも演奏する実力があったと伝えてくれる。ザ・ビートルズ解散4か月後に、このアルバムが日本に生まれたことを誇りにしたい。

 

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

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