高音質ハイレゾ名盤

2017年4月7日

清らかな世界が広がる59回グラミー受賞作!

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静かに訴えかけるような歌と、それに寄り添うようなピアノの微妙なニュアンスを聴く
「シューマン:リーダークライス 作品39」ドロテア・レシュマン(ソプラノ)、内田光子(ピアノ)

現地時間2月12日、日本時間まだ夜の明けきらない2月13日早朝、うれしいニュースが飛び込んできた。全米の音楽産業において優れた作品を創り上げたクリエーターの業績を称える第59回グラミー賞クラシック部門最優秀ソロ・ボーカル・アルバム賞に、日本出身のピアニスト内田光子が選ばれた。

実は内田光子は2011年の第53回でも、『モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番』で最優秀インストゥルメンタル・ソリスト演奏賞を受賞しているので、2度目である。受賞のニュースはテレビや新聞にも盛んに紹介されたので、ご存じの方も多いのではないかと思う。

今回は受賞作品である『シューマン:リーダークライス、女の愛と生涯/ベルク:初期の7つの歌』から、「シューマン:リーダークライス」を紹介することにしよう。

本作は、ソプラノの女声とピアノ伴奏による、シューマンの歌曲集である。

日本では以前から、ドイツ語のままで「リーダークライス」と呼ばれている曲だが、これを文字通り翻訳すると「歌の輪」という意味になろうか。

19世紀のドイツ・ロマン派の詩人ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフの書いた詩にシューマンが曲をつけた12曲の小曲からなる連作の歌曲集である。

共演した女声ソプラノは、オペラでは、モーツァルト「フィガロの結婚」のスザンナ役、伯爵夫人役、モーツァルト「魔笛」のパミーナ役、ビゼー「カルメン」のミカエラ役などでドイツ・ベルリン国立歌劇場を中心に、英国王立オペラやイタリア・ミラノ・スカラ座など、ヨーロッパの主要オペラ座で活躍している名ソプラノ。もうベテランでもあるドロテア・レシュマンだ。

ドロテア・レシュマンと内田光子がコンビを組み、あえてロンドンの収容人数530人ほどの小さな、だが伝統のあるウィグモア・ホールで2015年5月に演奏されたライブが、本アルバムである。

本アルバムは、ときに感情を激しく表現するオペラの歌い方とは異なり、実に静かに、切々と訴えかけるようなドイツ・リートと呼ばれる歌のジャンルに属している。

12曲からなる「リーダークライス」は、見知らぬ土地にさすらう若者を歌った曲で、大空、そよ風、翼、静かなる大地、星の明るい夜、夢、月、森のざわめきといった、ドイツの森の自然がたっぷりと神秘的に、次から次へと登場する。夢見る、ピュアな歌集である。内田光子のピアノ伴奏は、レシュマンのソプラノに寄り添うように静かに、そして着実に、音楽の幅を広げていく。そして夢見る瞬間を多く演出してくれる。

まじりけもなく清らかな別世界こそ、シューマンの追い求めたドイツ・ロマン派の真骨頂である。こうした音楽はハイレゾでこそ、真価を発揮するといってよい。大きな音ではなく、ごくごく小さなニュアンスも聴き逃すまいとしたときに、その違いがよくわかると思われる。

特に第5曲「月の夜」の冒頭に聴ける、デリケートなピアノの始まりと、ソプラノの出だし。歌が出てくると、バランスをとるようにピアノはやや引き気味になる。その絶妙なバランスの変化を聴きたい。最終の第12曲「春の夜」での内田光子のたたみかけるように、ほんの少しだけ大きくなるピアノの微妙なニュアンスは聴きものである。この世ならざるような静けさの中で、ピアノがまるで歌の中にでてくる、うぐいすのように、ほんの一瞬間鳴くように光り輝く。心に春の爽やかな風が吹き込むような気持ちになれるアルバムである。

内田光子も受賞後のレコード会社(ユニバーサル・ミュージック)のインタビューで、「ありがたいことですから、私は大変うれしかったです。(私は)音楽を本当に愛しているわけです。ですからその愛情と、これに惹かれる気持ちが他の人に伝わって、それによって音楽の美しさが人にもし伝われば、これほどうれしいことはないんです。グラミー(賞を受賞した)と聞いて、『変わっている人だけど、ちょっと聞いてみよう』と思う方がいたとしたら、これは大変うれしいことです」と語っている。本当にそうだと思う。本アルバムを聴きました。内田光子さん、グラミー受賞、おめでとうございます。

 

(文/野村和寿)

雑誌編集者を長くつとめ、現在は校閲者。1975年にカール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本公演のブラームス交響曲第1番の最終楽章で、鳥肌が立ち、帰り道をさまよった経験を持つ。爾来、クラシックを生涯の友として過ごしてきた。編集者時代、クラシック以外のロックやジャズといったジャンルのアーティストと交流を深めるうちに、クラシックと、楽しさにおいて何も変わらないことに確信を持つ。以来、ジャンルを取り払って、SP盤からハイレゾまで、未知なる音の発見の喜びを日々捜している。また無類の古いカメラ好きでもあり、特にドイツの光学製品に魅せられ、ライカとそのレンズの蒐集に執念を燃やしている。

 

 

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