高音質ハイレゾ名盤

2017年4月5日

名曲「アリソン」収録のデビューアルバム

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UICY-78317 Elvis Costello_My Aim Is True枠に収まりきらない“コステロ・ミュージック”をすでに確立。そのスタジオの気配が濃密に感じられる1枚。
エルヴィス・コステロ『マイ・エイム・イズ・トゥルー』

20世紀UKの偉大なポップ・ソングライターというと、まずポール・マッカートニー、次にエルトン・ジョン、そしてこのエルヴィス・コステロといわれる。3人の中でもっともデビューの遅いのがコステロで、本作が1977年発売の英国デビュー作となる(日本ではセカンド・アルバムの『ディス・イヤーズ・モデル』がまず発売された)。1976年末から1977年初期にパスウェイ・スタジオで録音され、1977年発売となった。

プロデュースは彼の才能に惚れ込んだ、ミュージシャンでもあるニック・ロウが手掛けた。バックは、後にヒューイ・ルイス&ザ・ニュースとして大成功するサンフランシスコからやって来ていたクローヴァーのメンバーが務めた。

1977年といえば、パンク全盛期、ニューウェイヴの幕開け直前の時代だった。
エルヴィス・コステロも“怒れる若者”と呼ばれ、パンクの範疇で捕えられていたが、今聴くと明らかにパンクと異なる“コステロ・ミュージック”と呼べるものをこのデビュー作で確立しているのがわかる。パンク以前のパブ・ロック時代の人気者ニック・ロウがプロデュースし、バックはアメリカのミュージシャン。どう考えてもパンクと結び付かないのだが、当時のシーンではパンクとして売り出すのが手っ取り早かったのだろう。

1978年に初来日している。この時の前座が、デビュー時のシーナ&ロケッツであったこともあって印象深い。インタビューして知ったのは、父親がミュージシャンで、幼い頃からロックやポップスだけでなく、あらゆる音楽を聴いていて、膨大な知識を持っていることだった。同じ頃に会った、パンクのザ・クラッシュやザ・ストラングラーズのメンバーたちの音楽体験をはるかにしのぐものをコステロは持っていた。

だから、初期のファンには驚きを与えた1981年の『オールモスト・ブルー』にも、さほど驚かなかった。テネシー州ナッシュヴィルでカントリー界の大物プロデューサー、ビリー・シェリルを迎えて、カントリー・アルバムを作る。これは、彼のルーツの一端に過ぎなかったのだ。

その後は次々と革新的な作品を作り、不振だった頃のポール・マッカートニーを手助けしたり、ジャズ界の歌姫ダイアナ・クラールを3番目の夫人に迎えるなど、この人の音楽ルーツを理解していれば、さほど驚くことではない。それに人を驚かせるのをジョークの一つと考えている人でもあるからだ。1978年の初来日時、学生服スタイルでトラックに乗り、銀座を爆音で演奏しながら走り、警察に捕まった。1990年代初期、オーストラリアはシドニーのホテルで偶然、同宿になり、この事件について尋ねたら、本人は笑いながら、あれはひとつのジョークで楽しかったと語っていた。

本作では、リンダ・ロンシュタットが『ミス・アメリカ』の中でカヴァーし、アメリカの音楽ファンにエルヴィス・コステロという優れたソングライターの名を刻んだ「アリソン」がハイライト・ナンバーだろう。おそらく8トラックないし16トラックという、当時主流の24トラックより少ないマルチ・レコーダーで録音されたその音は、スタジオ空間の響き、音場がとても大切にされている。ハイレゾ音源で聴くと、そのスタジオの空気感のようなものが、CDに比べてより濃厚だ。音の気配、音楽の気配がハイレゾ音源だと濃密なのだ。

イントロやオブリガード的に使われる、ほとんどノー・ディストーションのエレキギターやペダルスティール・ギターの音の甘い香りは、ハイレゾ音源だとより強く香る。ザラザラとした音色の中にこの甘さが入ることによって、楽曲の完成度が高くなっている。CDでも気付けるが、ハイレゾ音源だとより伝わる。この曲など完全にパンクでなく、むしろニック・ロウが深く関わってきたパブ・ロックの進化形なのだ。

 

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

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