高音質ハイレゾ名盤

2017年3月15日

パンクの枠に止まらぬ音楽性を示した79年作

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スタイルとしてのパンクではなく、アグレッシヴにロックを追求した彼ら。リアルな空気感、残響感を大音量で味わいたい!
ザ・クラッシュ『ロンドン・コーリング』

1975年、1976~78年とイギリスへ行った。パンク前夜の胎動、全盛時代、パンクの死をこの眼で観て、肌で感じられた。クラッシュのデビュー前のステージを観られたのは、1976年の晩秋、彼らがセックス・ピストルズとツアーを始める前だったと記憶する。当時のロンドンは不況のどん底。いたる処に廃ビル、空室があり、街は荒れ、ある種のヤバい空気で満ちていた。

1977年3月、「白い暴動」でデビューしたクラッシュは、あっという間にパンク・ムーヴメントの中心に立った。実際に彼らと会ったのは、1981年秋だったと思う。大ヒットとなった『コンバット・ロック』録音中のスタジオへ出かけた。世界的な人気バンドとなり、この『コンバット・ロック』からも「ロック・ザ・カスバ」が全米トップ10入りした。彼らは成功を喜んでいたが、それをもてあまし、スタジオには解散を思わせる白けた空気も流れていた。1970年代を代表する名盤『ロンドン・コーリング』で、彼らは燃え尽きていたのかもしれないと後に思った。

メンバーの中でトッピー・ヒードン(ドラムス)と気が合い、彼が忌野清志郎の初のソロ・アルバム『RAZOR SHARP』に参加した後、日本にフラっとやって来た時に通訳も無しで喫茶店でお茶を飲んだ。ドラッグ中毒で苦しみ、破産寸前だった彼に、ロンドン録音の『RAZOR SHARP』に参加するように声をかけてくれた清志郎のミュージシャンとしての資質を高く買っていて絶賛していた。パンク・ロックというと技量的な面が劣るという人もいるが、トッパー・ヒードンは、ジャズのドラミングもマスターしたテクニック派で、清志郎もその点を高く評価していたと本人が『RAZOR SHARP』発表時に教えてくれた。但し、すべてのレコーディングに参加できたわけではなく、途中でイアン・デューリーのバック、ブロック・ヘッズのドラマーに交替させられていたが、これもドラッグのせいだったと思う。

「ロンドン・コーリング」は1979年に発表された。ジャケット写真は、名カメラ・マンでクラッシュやケイト・ブッシュなどを撮り続けたペニー・スミス(彼女ともユニークな仕事をしたことがあるが、それはいずれ)。その衝撃的かつリアルなカットは、このアルバムだけでなく、パンク・ムーヴメントを切り取っていた。

録音はウェセックス・スタジオで行われ、エンジニアリングはビル・プライスが担当した。ちなみにプロデューサーは、ガイ・スティーヴンスが起用された。チープな音色だが、スタジオの残響感や空気感が非常によく出ているサウンドだ。メインを一発録りに置いて、オーバーダビングをあまり使わず、荒削りなイメージに仕上げている。

CDでは、2013年にBlu-spec CD2で出たリマスター盤が良い音を残している。ハイレゾ音源との違いは、スタジオの残響感や空気感が少し薄いという点だ。タイトル曲「ロンドン・コーリング」のリズム・カッティングの印象的なギターが、スタジオの空気に溶け込み、それを含めた残響が、CDよりハイレゾだと生々しく聴ける。ディストーションをあまり効かせていないシンプルなギター音が、いろいろな曲で鳴るが、この音色のニュアンスやドラムスのスネアの音のチープさも、ハイレゾ音源がよりリアルに表現できている。中型以上のスピーカーで大音量で鳴らしてみると、それが如実になってくる。

このアルバムは単なるパンク・ロックだけでなく、ロックン・ロール、レゲエなど、ザ・クラッシュというバンドの音楽性の広さも特徴だ。スタイルとしてのパンクより、むしろアグレッシヴにロックを追求していった彼らのスタイルが強く伝わってくる。オリジナルLPは2枚組の大作だったが、不況であえぎ、お金の無い彼らのファンのために、値段を2枚組のそれでなく1枚のLPに押さえた、彼らの愛情も音楽ファンには嬉しかった。

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

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