高音質ハイレゾ名盤

2017年3月3日

青年の夢を音楽にしたまさに幻想の交響曲

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若きベルリオーズの驚くべき試みが随所に散りばめられた大曲を、煌びやかで爽快なオーケストラの演奏で聴く。
『ベルリオーズ:幻想交響曲』
レナード・スラトキン指揮/フランス国立リヨン管弦楽団

エクトル・ベルリオーズ(1803-1869年・フランス)が、26歳で作曲した劇的な交響曲である。19世紀のパリ。音楽家志望で、先日まで医学生だった青年(ベルリオーズその人)が、活躍中の美貌の舞台女優に恋をした。もちろん女優には見向きもされなかった。青年は、彼女への思慕を交響曲にしようと作曲を思い立つ。そしてわずか4ヶ月間で書き上げてしまう。しかも演奏時間が約55分もかかる大曲に仕上がった。無名の作曲家は、恋い焦がれる女優のための動機(ふつうイデー・フィクスと呼ばれる)を、交響曲のあらゆる箇所に散りばめる。

第1楽章では始まって3:18で、初めてこの動機が登場する。恋の動機が何度も繰り返されることに気がつくに違いない。私がざっと数えただけでも、第1楽章で37回、第2楽章に4回、第3楽章に7回、第4楽章に1回、第5楽章に4回も同じ彼女への動機が登場する。確かにこの交響曲は夢心地になるほど、愛らしい。

一度でも、幻想交響曲を聴いたならば、次から次へと繰り出される軽妙な仕掛けにもぐっとくるに相違ない。あらゆる方法で彼女の気を惹こうとする、若き青年の情熱が音楽になっているかのようだ。

数々の音の仕掛けが隠されている。たとえば、第2楽章の舞踏会の場面では、ハープが2台(楽譜上では4台)も登場して、ワルツを踊るようだ。交響曲でワルツが登場したのは、本曲が初である。第3楽章では打楽器のティンパニーが2組(合計4台)も登場して、ペダルで皮の張りを調整しながら音程を変化させ、ティンパニー同士で掛け合いをみせ遠雷を表現する。

しまいには、オーボエの兄貴分のイングリッシュ・ホルン奏者が舞台上、オーボエ奏者が舞台裏へと移動して、舞台の上と裏の間で掛け合いをみせる。第5楽章のクライマックスには、教会の鐘まで用意されていたりもする。また、通常は弓の馬の毛の部分をこすって音を出す弦楽器が、いつもとは異なり、弓の木の部分で弦をこすったり(コルレーニョ奏法)、楽器の駒にごく近い部分で奇っ怪な音を発したりもする(スル・ポンティチェリ奏法)。

驚くべきは、こうした数々の試みが、かのベートーベンの第九交響曲のわずか6年後、ベートーベンがこの世を去ってわずか3年後の1830年に、若い26歳のベルリオーズの手によって作られたという点である。ベルリオーズの試みが作曲の世界で、いかに早かったかに驚かされるばかりだ。また、登場する楽器の進歩によるところも大きい。金管楽器のトランペットの親戚であるコルネットなどのように、ベートーベンのときにはなかった仕組み、つまり金管楽器にバルブ・システムが追加されて、金管楽器でも自由に音階が吹けるようになったりした。また低音を受け持つ金管楽器チューバが登場すると、ベルリオーズはいち早く幻想交響曲の改訂版にチューバを採用したりもしている。

幻想交響曲を聴くには、ぜひ、フランスのオーケストラの録音を聴きたい。ベルリンフィルともウィーンフィルとも違った音色で、実に音が軽く、目の覚めるように煌びやかで爽快なのである。この爽快さは特に木管楽器や金管楽器でめざましく、フランスの作曲家の作品だと大いに効果を発揮してくれる。

丹念なスラトキンの指揮振りとリヨン管弦楽団でのハイレゾの聴きどころは、まずは2トラックにある第1楽章冒頭の透明感だ。6:51からのオーケストラがだんだんと加速しながら盛り上がっていく様が手にとるように分かり、まさに聴き手を幻想の世界に誘うところ。そして3トラック第2楽章の楽しい舞踏会、第3楽章のティンパニーのやりとり、5トラック第4楽章の不思議な行進曲、6〜9トラック第5楽章のミステリアスな夜の音楽と、全編にわたって聴きどころが満載である。

別テイクとして10トラックに、作曲当時、友人のコルネット奏者アルバンからベルリオーズへの所望で、第2楽章にコルネットがメロディーを引き立てながら、別にメロディーを奏でる(オブリガートという)バージョンが収録されている。普通ではなかなか聴くことができない特別バージョンである。

本曲は2011年にフランス・リヨンにある、フランス国立リヨン管弦楽団の本拠地リヨン・オーディトリウムで録音されたが、その後、カナダの高品質録音で有名な2xHDが、ハイレゾのためにリマスタリングしたものである。特に低音のごく低いところまで伸びていたり、ティンパニーの強烈なアタックなどはオーディオ的にも素晴らしい出来で十分に楽しめるはずである。

 

 

(文/野村和寿)

雑誌編集者を長くつとめ、現在は校閲者。1975年にカール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本公演のブラームス交響曲第1番の最終楽章で、鳥肌が立ち、帰り道をさまよった経験を持つ。爾来、クラシックを生涯の友として過ごしてきた。編集者時代、クラシック以外のロックやジャズといったジャンルのアーティストと交流を深めるうちに、クラシックと、楽しさにおいて何も変わらないことに確信を持つ。以来、ジャンルを取り払って、SP盤からハイレゾまで、未知なる音の発見の喜びを日々捜している。また無類の古いカメラ好きでもあり、特にドイツの光学製品に魅せられ、ライカとそのレンズの蒐集に執念を燃やしている。

 

 

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