高音質ハイレゾ名盤

2017年2月22日

考え事をするのに最適なアンビエントの良音

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BRC538_JK思考や感情に影響しないが、あるとないでは雲泥の差。“存在感を消した存在感”がある空気のような音楽。
ブライアン・イーノ『Reflection』

ロキシー・ミュージック時代のブライアン・イーノを知っている若い方は少ないかもしれない。派手なメイク、金色に染めた長髪、ステージ・アクション……。ヴォーカリストのブライアン・フェリーより目立つその存在感やヴィジュアルは、現在の哲学者のような外見からは想像しにくい。音楽家には、例えばザ・ローリング・ストーンズのようにひとつの音楽的傾向を守り、進化させるタイプがいる一方で、いったいこの人は何が本職なのかわからない、活動が多岐に渡り、千変万化というタイプもいる。ブライアン・イーノは、その典型だろう。

デヴィッド・ボウイの有名なベルリン三部作、『ロウ』、『ヒーロー』、『ロジャー』は、イーノの存在抜きでは語れないだろうし、U2、ディーヴォ、トーキング・ヘッズなどを手掛けた敏腕プロデューサーとしても有名だ。そんな多岐な活動を続けてきたブライアン・イーノの代表的な仕事のひとつがアンビエント・ミュージック~環境音楽を創始したことだ。何回か降りたニューヨークのラガーディア空港では、彼のアンビエント・ミュージック『ミュージック・フォー・エアポーツ』が流れていた。その流れ方は特異で、音楽があってもなくてもよい環境の中で、生きるのに必要な空気のように当然の如く存在し、かつ、存在感を感じさせない。しかし、あるのとないのでは雲泥の差がある。

ブライアン・イーノのアンビエント・ミュージックは、短い電子音がメロディーを担当し、パッド音が重なって音楽の形をとっている。ポップスなど人の耳を奪うことを目的として作られる音楽は、曲を構成する一音一音を作曲者が指定し、多くの場合は人の心を打つ言葉=詞を伴う。インストゥルメンタルのアンビエント・ミュージックでは、音を指定するルールをイーノが規定し、システマチックに音を生成する手法で作られる。この手法だととんでもない音が生成されたり、単に電子音とパッド音の並んだ味気のない音楽が生まれる可能性もあるのだが、イーノの生成音楽=アンビエント・ミュージックにはそれがない。作者としてのブライアン・イーノが音の生成を感性でコントロールしているからだ。

最新作『Reflection』のセルフ・ライナーノーツで、イーノはこういった音楽をジェネレイティブ(generative)=自らが自らを作る自動生成と記している。『Reflection』は、熟考、熟慮という意味があるが、この言葉通り、イーノはこの作品をThinking Music~考えるという行為に最適な環境を生み出すための音楽と述べている。実際に本作を適度なヴォリュームで流しながら、ぼーっと考え事をしてみると気持ちが良い。音楽は、考え事にプラス、マイナスの一切の影響を与えてこないが、鳴っている方が鳴っていないより、心が落ち着く。いわゆるポップスやロック、クラシックなどの音楽が、人にある種の感情を生み出すように作用しているのに対し、この作品はそれらと正反対の位置にあるのだ。

収録曲は「Reflection」1曲のみで54分の大作だ。オリジナルCD(初回生産盤)は、現在のCDの中では、もっとも音質が良いと思っているUltimate Hi Quality CDなので、これで充分と思っていたが、ハイレゾ音源を聴くと少しイメージが変わる。音が良くなるというより、音に柔らかさが加わった感じで、より、Thinking Musicらしい、存在感を消した存在感がある。小型のスピーカーでは感じ方が少ないが、ある程度のスケール感のある大型スピーカーで鳴らすと、CDに比べて、よりエッジの少ない音質を感じる。ヘッドホンでも試聴したが、アンビエント・ミュージックには向いていない。音が空気と混じりあってこその環境だからだろう。アコースティックを主体としたオーディオ的良音と異なるが、これも良音のひとつの典型であると思っている。

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

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