高音質ハイレゾ名盤

2017年2月3日

聴かせるバイオリンは甘く、メロウ

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名手アウアーの系譜に連なる若きバイオリニストが、伝統のオーケストラと待望の共演!
『チャイコフスキー:バイオリン協奏曲』
リサ・バティアシュヴィリ(バイオリン)、ダニエル・バレンボイム指揮/ベルリン国立歌劇場管弦楽団

今回取り上げるのはピョートル・チャイコフスキー(1840-1893年)が1878年37歳のときに作曲、1881年に初演されたバイオリン協奏曲である。

メロディーの美しさではピカイチであるチャイコフスキーが作った協奏曲だけに、バイオリン協奏曲の名曲中の名曲である。作曲当時、チャイコフスキーは、当時の名バイオリニストであったレオポルド・アウアー(1845-1930年)に献呈しようとしたが、アウアーは曲が難しすぎるとして、献呈を断っている(アウアーは後に本曲を演奏するようになった)。

名手アウアーは、ヤッシャ・ハイフェッツ(1901-1987年)やナタン・ミルシテイン(1904-1992年)という20世紀を代表するバイオリニストを多く育てたことでも知られる。バイオリンという楽器は、誰に習うかということが非常に重要であり、習う教師によって、メロディーの歌わせ方がみな異なるのである。

今回、ご紹介する、ジョージア(旧グルジア)出身の若きバイオリニスト、しかもとびきりの美人の、リサ・バティアシュヴィリだが、なんとアウアーとも浅からぬ因縁をもっている。

バティアシュヴィリは、ドイツの名バイオリン教師アナ・チュマチェンコ女史に師事している。チュマチェンコは、現在活躍している若手のバイオリニストを多数デビューさせている、これまたすごい名教師である。チュマチェンコは子どもの頃、彼女の父にバイオリンの手ほどきを受けたが、父はなんと、アウアーの愛弟子の1人だった。巡り巡って、アウアー先生=チュマチェンコ先生=バティアシュヴィリが1本の糸でつながるのである。

特にアウアー門下の演奏を録音で聴くと、独特の節回しと歌いっぷりが共通していて、バイオリンという女性のような楽器を輝く歌姫へと変貌させているのである。こうしたバイオリニストの系譜を知って、本曲を聴くというのも一興ではないだろうか?

さて、演奏に戻る。リサ・バティアシュヴィリと共演するのは、ダニエル・バレンボイム指揮するベルリン国立歌劇場管弦楽団。ベルリンフィルと並び、ベルリンの伝統の香をはぐくむオーケストラと彼女の共演は、かねてから待望されていたものである。

録音されたのは2015年の6月、旧東ベルリンのナレーバ通りにあるベルリンフンクハウス。東ドイツ時代の1950年代に作られた放送局の建物だったが、ドイツ統一後、歴史的建造物として甦った。中にある録音用の大ホールの音響も、横幅の2倍もある天井の高さを誇り、残響が2秒と適度に長く、録音用として、現在、脚光を浴びてきている。すでにフンクハウスで録音された名録音も誕生し始めている。

本曲の聴きどころはたくさんあって、第1楽章が始まってからオーケストラにうながされるように、1トラック0:50からバイオリンのソロが始まる。1:13にバイオリンはこの曲の核となるメロディーを示す。その弦楽器のもつ艶々した触感は、聴いていて実に気持ちよいものだ。バイオリンに導かれるように、今度は6:39からオーケストラが華やかに盛り上げ、この美しいメロディーに心躍らされてしまう。

ここからはバイオリニストの超絶技巧を駆使したような、しかもバイオリンでないと味わえないような美しいメロディーが次から次へと飛び出してくる。ハイレゾの聴きどころは、バイオリンの高音が奏でられるトラック1第1楽章の10:10あたりから13:26にかけての、音楽用語ではカデンツァと呼ばれる、バイオリンのソロだけで奏でられる部分である。バイオリンは弓で弦を弾いて振るわせて音を出すのだが、弦をこするときの音までが手に取るように聴こえてくる。第2楽章のむせび泣くような音色、第3楽章の一気にフィニッシュに向けて駆け抜けるさまも一興である。

ちなみにバティアシュヴィリのバイオリンは、1737年製の名器グァルネリ・デル・ジェス(イエスのグァルネリ)である。同門にあたるハイフェッツも製作年の違いこそあれ同名器を奏でていた。バイオリンの甘くメロウな音色で、しかもどこか苦みや渋みもある、若手なのに、なかなかやるわいと言わせてしまう聴かせる演奏を楽しんでほしいと思う。

 

(文/野村和寿)

雑誌編集者を長くつとめ、現在は校閲者。1975年にカール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本公演のブラームス交響曲第1番の最終楽章で、鳥肌が立ち、帰り道をさまよった経験を持つ。爾来、クラシックを生涯の友として過ごしてきた。編集者時代、クラシック以外のロックやジャズといったジャンルのアーティストと交流を深めるうちに、クラシックと、楽しさにおいて何も変わらないことに確信を持つ。以来、ジャンルを取り払って、SP盤からハイレゾまで、未知なる音の発見の喜びを日々捜している。また無類の古いカメラ好きでもあり、特にドイツの光学製品に魅せられ、ライカとそのレンズの蒐集に執念を燃やしている。

 

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