高音質ハイレゾ名盤

2017年2月8日

CDとは別次元の音 声の存在感を聴きたい

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基本 CMYK

声というものが、肉体と感性と感情から生まれたものだということを再認識させられる。
甲田益也子『jupiter』

甲田益也子は、木村達司とのユニット、ディップ・イン・ザ・プールでシンガー、作詞を担当している。また、an-anなどでスーパーモデル、女優として映画「ファンシィダンス」、「白痴」などで知られている。ユニットの結成は1983年と古く、1985年には、ラフトレード・レコードやヴァージン・レコードなど、まず海外で認められた。圧倒的な甲田益也子のヴィジュアルとエンジェル・ヴォイス、木村達司の作るアンビエントなトラックが合わさると、世界にも類を見ない、ディップ・イン・ザ・プールでしか出せないサウンドが生まれる。

ぼくがディップ・イン・ザ・プールの存在を知ったのは、ラフトレード・レコードのオーナー、ジェフ・トラヴィスにサンプル盤を貰ったことによる。30年以上も前の話だ。日本ではまったく無名だった彼らを捜して、当時、パーソナリティを務めていたFM東京(現TOKYO-FM)の「レコパル音の仲間たち~キャプテン・ミッドナイト・ショー」に電話出演してもらったのが、最初の出逢いだった。その後、日本でもカリスマ的な人気が出て、アルバムが発売されるごとに、ほぼ毎回、ふたりをインタビューしてきた。初めて甲田益也子と会った時は、天女とはこういう方をいうのかと、その存在感に驚かされた。

『jupiter』は、甲田益也子初のソロ・アルバムで1998年に制作された。総合プロデュースは相方の木村達司。清水靖晃、ゴンザレス三上(GONTITI)、テイ・トウワ、細野晴臣、ピーター・シェラー(アンビシャス・ラヴァーズ)などそうそうたるメンバーが、それぞれ1曲ずつ、甲田益也子のヴォーカルを引き立てるように努力している。木村達司が許したミュージシャンたちが、彼の監修のもと、そのミュージシャンなりのディップ・イン・ザ・プールを作り上げた、そういうイメージを発売当時は感じたものだ。楽曲的にもバックトラック的にもディップ・イン・ザ・プール本来のサウンドに準じたものだが、参加した個性の強い各ミュージシャンが、モア・ディップ・イン・ザ・プールを創り上げたのだと今回のリイシューを聴いて思った。

一般的にオーディオ・マニアは、アコースティックなサウンドを良音の基準として考える。例えばYMOやクラフトワークなどエレクトリカルなサウンドをオーディオ的に評価する人は少ない。だが、エレクトリカルな音楽にも普通の音もあれば、良音も存在する。ブライアン・イーノのアンビエント・ミュージックなどエレクトリカルが生んだ良音の代表例だと思う。

この『jupiter』も相当な良音作だと今回のリイシューを聴いて感じた。リマスタリングは、木村達司の友人で日本を代表するエンジニア、オノ・セイゲンが担当した。オリジナルCDと、今回、リイシューされたCDの音質は明らかに異なる。格段に良くなっている。これがハイレゾ音源となると、オリジナルCDに比べて別次元の音色を出してくれる。バックのサウンドの音のひとつひとつの意味が、ハイレゾ音源だと立体的に伝わってくるのだ。

最高に素晴らしいのは、甲田益也子のヴォーカル録音だろう。オリジナルCD以上の存在感がある。彼女の声が眼前で歌っていると感じられるだけでなく、言葉のひとつひとつの意味や重さがより明瞭になっているのだ。音楽の部分もそうだが、ポエトリー・リーディング風の「ア・シー・オブ・ラヴ」には、声というものが肉体と感性と感情から生まれたものだということを再認識させられる。肉声というのではなく、マイクを通した声の最良のオーディオ的リアリティが感じられるのだ。

東京の名門スタジオだったオンキョー・ハウスで録られたオリジナル・マスターは、かくも良音だったのかと唸らされる。リイシューCDと同時発売のハイレゾ音源、アナログLPにはこの作品の持つ、音質及び音楽的普遍性が、いかにリアルにしっかりと記録されていたかが伝わってくるのだ。

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

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