高音質ハイレゾ名盤

2017年1月11日

シンプルなトリオ編成ながら音は熱く厚い!

Theme Tag


 Neil Young Peace Trail

スピーカーを通して空気中に大音量が放たれた時、ニール・ヤングの意気込みが心を揺らす。
ニール・ヤング『ピース・トレイル』

 現在の出版不況から考えられないが、このハイレゾ・レコパルの前身であるFMレコパルは、全盛時、50万部を売っていた。FM番組表、オーディオ、音楽でほとんどすべてという特殊な雑誌が、現在、もっとも売れている人気週刊誌なみの部数を売っていたのだから、1970年代中期から1980年代初期の音楽やオーディオ・シーンがいかに熱かったかわかる。

 そんなFMレコパルが休刊する時、レギュラー執筆陣が人生の思い出となる5枚を選ぶという企画があった。ぼくが迷わず選んだ1枚が、ニール・ヤングの『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』だった。1970年、ザ・ビートルズが解散し、ジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスが相次いでこの世を去った。当時はまだ実名で音楽ライター業をしていなかったが、相次いだ事件はショックで、音楽中毒者だったぼくも、もう胸をときめかせて聴く新しいレコードは現われないかも知れないと絶望していた。それを、いやそんなことはない。音楽は永遠に聴く者の心を打つものだと教えてくれたのが、バッファロー・スプリングフィールド時代から好きだったニール・ヤングの『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』だったのだ。

 それから約50年弱が過ぎたけれどまだニール・ヤングは立っている。歌っている。凄いのは、時々、その名がまだ生きていると知らしめるようにアルバムを発表するのでなく、常にリリースが続いていることだ。2010年代に入ってからも、『ル・ノイズ』、『アメリカーナ』、『サイケデリック・ピル』、『ア・レター・ホーム』、『ストーリートーン』、『ザ・モンサント・イヤーズ』、そして本作と新作を出している。それに加え、自身の古い未発表音源をリリースするアーカイヴ・シリーズが『ア・トレジャー』、『ライヴ・アット・ザ・セラー・ドア』、『ブルーノート・カフェ』と出ている。さらにMP3などの音質に“作った者が意図する音質的レベルに達していない”と高音質プレイヤー・システムPONOを発表したり、環境に優しい電気自動車リンクヴォルト・プロジェクトに関わったり、70歳を過ぎているとは思えない、エネルギッシュな活動は、『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』の時と変わらないか、それ以上に精力的なのだ。

 2010年代に入ってからは、毎回、サウンド的にもオーディオ的にも興味深いアプローチを見せてくれているニール・ヤングだが、この新作は、トリオ編成のシンプルなロック・アルバムにチャレンジしている。ベースにポール・ブシュネル。アイルランド出身でL.A.ベースの名スタジオ・ミュージシャン。ドラムスは、生きるドラムスの人間国宝ジム・ケルトナー。そしてギターとヴォーカルがニール・ヤングという編成だ。レコーディングは音楽プロデューサーのリック・ルービン所有のシャングリラ・スタジオ。エンジニアは、『サイケデリック・ピル』や『モンサント・イヤーズ』を手掛けたジョン・ハンロン。一発録りを基本に置いたシンプルなレコーディングで、ニール・ヤングのいつものレコーディング通り、時間はかけていない。内容的には、平和、テロ、人種差別、女性の権利問題などを取り上げながら、一貫して隣人への愛を訴えている。ストレートな社会派アルバムだ。

 CDと並行して発表されたハイレゾ音源は、表題曲の「ピース・トレイル」を聴いただけでCDとの違いがわかる。トリオ編成なのだが、このサウンドには音の熱さと厚みがある。温度感は明らかに熱が高く、音の厚みがあるのがハイレゾ音源なのだ。ニール・ヤングも恐らくそう希望していると思うが、スピーカーを使って空気の中に大音量を放った時、ハイレゾ音源のオリジナル・マスターテープとニール・ヤングの意気込みが音として心を揺らす。小音量だとよほど高性能システムでないとCDとハイレゾ音源の差は少ないかも知れない。

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

e-onkyo_logo

のページへ

関連記事

UCCP1075_1758×1772_thmub

クールビューティーの奏でるコンチェルト!

2017年4月21日

UICY75488_1756×1772_thmub

第2期黄金時代を決定づけた10thアルバム

2017年4月19日

はっぴいえんど_thmub

通称“ゆでめん”のファースト・アルバム

2017年4月12日

UCCD1423_1500×1500_thumb

清らかな世界が広がる59回グラミー受賞作!

2017年4月7日

Book

第26巻好評発売中!

隔週刊CDつきマガジン

JAZZ VOCAL COLLECTION

BUY

牧野良幸のハイレゾのすゝめ