高音質ハイレゾ名盤

2017年8月30日

シーンに衝撃を与えた大ヒットのデビュー作

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感情 剥き出しのヴォーカル、荒削りとも思えるサウンドの魅力が、よりリアルに伝わってくる。
アラニス・モリセット『ジャグド・リトル・ピル』

本作は22年前、1995年に発売されている。輸入盤店で偶然、本作に出逢い、一発でノック・アウトされた。買った理由のひとつは、マドンナが新たに立ち上げたレーベル、マーヴェリックの新人だったという点が大きい。あのマドンナが、社主としてリリースを許可した新人はどんなサウンドなのだろうと思ったのだ。

買ったその日からヘヴィ・ローテーションになり、当時、DJをしていたJFNの番組でも毎週のようにオンエアーした。このアルバムはひょっとしたら、マドンナのアルバムよりも売れるなんて予言までしてしまった。ぼくの予感も満更でなかったのか、本当にこのアルバムは売れてしまったのだ。マドンナの当時の1枚当たりのアルバム・セールスをはるかに凌ぐ売れ行きとなった。

このアルバムを初めて聴いた時に思ったのは、荒削りとも思えるサウンドと心を強く打つ剥き出しのヴォーカルの瑞々しさ。当時、大人気だったベックの「ルーザー」に通じるものを感じた。シンガー・ソングライターなのだが、それ以前の大人しい、いわゆるシンガー・ソングライター・ミュージックでなく、新しい時代を感じさせてくれるオルタナティヴ・ロックの香りがしたのだ。1995年といえば、グランジ・ロックは終わり、ブリット・ポップも一段落したころだった。無難でまとまったダンス・ポップのヒットが多い中、この作品はシーンに突きつけられた、よく研磨された鋭い感情のナイフのように思えた。

アラニス・モリセットはカナダのオタワ出身。1974年生まれなので本作がリリースされた時は、わずか21歳。9歳で作曲を始め、10歳でテレビ番組に子役として出演。得たギャラで10歳にして、自分の音楽レーベル“Lamor”を設立と早熟だった。17歳でカナダでのデビュー作『Alanis』をリリース。この作品はカナダ版グラミー賞、ジュノー賞で最優秀女性新人賞を獲得している。

早熟で若くしてショービズ・シーンで活動してきた故に、こうあらねばならぬという強迫観念に捕われ、慢性不親和症という精神不安定な症状となってしまった。休養中、心機一転のためにロサンゼルスに移住することを決意する。症状も改善し、再び音楽活動を開始。その才能は注目を集め、自身としてはカナダ時代の2作を含めると3作目となる本作で、前述のマーヴェリックから世界デビューとなった。

プロデュースのグレン・バラードは、ポーラ・アブドゥルやウィルソン・フィリップスなどを手掛け、ソングライターとしては、マイケル・ジャクソンやセリーヌ・ディオンなどを手掛けてきた。つまり、メジャーの大通りを歩んできたような人で、彼のプロデュースは、アラニスのオルタナティヴ性、剥き出しの音楽性などを活かしながら、ヒットに必要なポップ感覚を見事に引き出している。

バックのバンド・メンバーは、レコーディングの3か月前にグレン・バラードがオーディションで選んだ。元キング・スワンプやレッド・ホット・チリ・ペッパーズのメンバーもいる。レッド・ホットからは、フリーとディヴ・ナヴァロがファースト・シングル「ユー・オウタ・ノウ」に参加している。彼女のテープを偶然聴いたふたりの申し出で、この共演は実現した。

本作の発表された1995年はCD黄金時代。かなりの良音と思ったが、新たにリマスタリングされたハイレゾ音源を聴くと、音場のイメージがCDよりも明確に伝わってきた。ほとんど1テイクでレコーディングされたというヴォーカルのニュアンスも、ハイレゾ音源だとより感情がリアルに伝わってくる。あえて演奏を煮詰めなかったと思えるバックのサウンドの荒削りなイメージも、より明確に聴く側に伝わる。演奏の一体感のようなものが、CDよりハイレゾ音源だとよく分かる。懐メロでなく、現代のポップス/ロックだと再認識させられた。

 

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

 

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