高音質ハイレゾ名盤

2017年8月16日

ドラマーの脱退などを経た6年ぶりの3作目

Theme Tag


 Fleet Foxes - Crack-Up

多彩な音楽性はより世界が広がり、次々に切り替わる風景を耳の中に観させられているかのよう。
フリート・フォクシーズ『クラック-アップ』

フリート・フォクシーズは、ここ10年の間に出現したアメリカン・バンドの中ではもっとも魅せられたバンドのひとつだ。結成の地は、ニルヴァーナなどグランジ・ロックを生んだシアトル。高校の同窓生ロビン・ペックノールド(ヴォーカル、ギター)とスカイラー・シェルセット(ギター、マンドリン)の出逢いが結成のきっかけだった。ロビン・ペックノールドの両親は音楽マニアだった。ビーチ・ボーイズ、ボブ・ディラン、サイモン&ガーファンクルからフェアポート・コンベンション、スティールアイ・スパン、マーヴィン・ゲイなど幅広い、ありとあらゆる上質な音楽を聴いて育った。

当初はパイナップルというバンド名だったが、2006年にフリート・フォクシーズと改名する。ベース、ドラムス、キーボードなどを加えてライヴを始める。彼らを最初に認めたのは、シアトルをベースにプロデューサー/エンジニアとして活動するフィル・イークだった。フィル・イークはグランジ・サウンドを創造したプロデューサー、ジャック・エンディーノとの仕事で有名だ。

2008年、インディー・レーベルの老舗で、かつてニルヴァーナなどを世に送り出したSUB POPと契約。すぐにEP『サン・ジャイアント』をリリースしてデビュー。2008年6月3日には、デビュー・アルバム『フリート・フォクシーズ』をリリースした。このアルバムはあらゆるメディアから絶賛され、インディー・バンドとしては異例中の異例、人気テレビ番組「サタデー・ナイト・ライヴ」にまで出演した。2008年といえばすでにCDが売れない時代に入っていたにもかかわらず、アルバムはすぐに50万枚をセールスした。

では何故、フリート・フォクシーズはそんなにまで歓迎され、20年にひとつの逸材と言われたのだろう?
ひとつはその歌詞だろう。20代前半の若者、アメリカに生きる若者の絶望や虚無感を描きながら、それでも微かに未来の可能性を信じているような歌詞は、ロックの王道であるメッセージ性を持っていた。

もうひとつは良質な音楽を聴いて育った故の感性の高さが、サウンドに反映していることだ。若いファンにはそれが新鮮だったと思う。彼らのサウンドの中には、ロックを60年近く聴いているぼくの耳には、あらゆる懐しさが詰まっている。1960年代~70年代の音楽をコピー同様に取り入れたり、フレーズを借用するのではなく、現代の20代の若者として消化して提示している。どこかで聴いたことがあると同時に、未体験の新しさが感じられるのだ。1960~70年代をリアルタイムで聴けなかった若者にとっては、とてつもなく新鮮に受け止められるだろう。

本作は6年ぶりの3作目。ドラマーだったジョシュ・ティルマンは脱退し、ファーザー・ジョン・ミスティ名義で活動をはじめ大成功を収めた。ロビン・ペックノールドは大学に入学した。そうした活動休止状態からの再起作が本作なのだ。プロデュースは、ロビン・ペックノールドとスカイラー・シェルセット。フィル・イークは、一歩退いてエンジニアとしてクレジットされている。タイトルは、日本語にすると“崩壊”となるが、スコット・フィッツジェラルドのエッセイから命名された。

サウンドで特徴的なのは、音響感と浮遊感がこれまで以上に増したことだ。聴いてきた音楽を基本としながらも、モロッコ音楽のグナワやエチオピアン・ジャズをサンプリングしたりと、より世界が広がっている。サウンド的にはジャケットのような写真や風景を次々と耳の中に観せられているというイメージで、その切り替わり方が見事だ。
ハイレゾ音源だと、デジタル・カメラに例えるなら画素子数が何倍も上がり、より細部まで耳がフォーカスできる気がする。残響感もハイレゾ音源だとより美しく感じる。

若いファンにはすでに熱狂的な人気があるが、オールド・ロック・ファンにも聴いて頂きたい傑作だ。

 

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

 

e-onkyo_logo

のページへ

mora_logo

のページへ

 

関連記事

WPCR000080270_R_thumb

クラプトンと敬愛するB.B.キングとの共演作

2017年9月20日

UCCG-51096-H1-2

モーツァルトが最後に到達した「涙の日」

2017年9月15日

5.0.2 JP

9/27に遺作が発売されるL.ラッセルの3作目

2017年9月13日

ラナ・テ゛ル・レイ UICS-1324 ラスト・フォー・ライフ_thmub

生きることへの欲求を歌ったメジャー4作目

2017年9月6日

Book

第37巻好評発売中!

隔週刊CDつきマガジン

JAZZ VOCAL COLLECTION

BUY

牧野良幸のハイレゾのすゝめ