高音質ハイレゾ名盤

2017年8月4日

ぴりっと辛いマーラーの「復活」を聴く!

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エスニック料理のように刺激的、若きメータがマーラー作品に初めて挑んだ名録音
『マーラー:交響曲第2番「復活」』 ズービン・メータ指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ソプラノ:イレアナ・コトルバシュ アルト:クリスタ・ルートヴィヒ ウィーン国立歌劇場合唱団

今回はグスタフ・マーラー(1860~1911年・主にオーストリア)の交響曲第2番「復活」をご紹介しよう。「復活」は全部で79分にわたる大曲であるが、この曲に魅せられて、この「復活」1曲だけを指揮したいがために、ジャーナリストから指揮者に転身し、世界中を巡ったアメリカ人指揮者ギルバート・キャプラン(1941~2016)がいたほどである。確かに「復活」は長大だが、その勘どころをつかめば、何度も反復して聴きたくなるほど魅せられてしまうかもしれない。

マーラーが「復活」を作曲したのは1888年28歳から1894年34歳の若きときだった。第1楽章は21分03秒にも及ぶが、その始まりは劇的である。もちろんハイレゾならではの聴きどころでもある。

何の前触れもなく、いきなり重低音が鳴り響き、聴き手の心をわしづかみにする。絶叫の高みへと上り詰め、堂々としたところをみせるかと思うと、一転して美しい牧歌的なメロディーが川の流れのように出てきたりもする。これで静かに平穏な音楽になっていくのかと思いきや、トランペットやホルンといった金管楽器が勇ましく咆哮し、打楽器ティンパニーが激しく連打されかと思うと、また静かに、独奏バイオリンが美しく優雅に奏でたりもする。しまいには大太鼓やシンバル、ティンパニー、大小のドラ(タムタム)が鳴り響き、事態はいっそう激しさを増す。激しいところとゆったりしたところが交互に現れ、常に前向きに先へ先へと進んでいく音楽なのである。そして、第1楽章は唐突に終わる。

クライマックスはなんといっても最終楽章の第5楽章でやってくる。最も劇的で、ハイレゾならではのたっぷりとしたサウンドである。第5楽章は約34分。このうち、18分が経過したトラック8は、男声(テノールとバス)、女声(ソプラノとアルト)の混声4部からなる荘厳な合唱で始まる。歌詞は「不死の生と愛の望みとよみがえり」を歌う。まさに「復活」の合唱である。この部分は本曲最大の聴きもののひとつである。バスの声が下敷きとなった、静かな落ち着きのあるア・カペラ(伴奏のない合唱)の声が深々として、心に静かに突き刺さってくる。

続く最終部分トラック9も聴きものである。静かだが前向きな女声アルトのソロで始まり、女声ソプラノのソロも促されるように続く。さらに混声合唱が力強く歌い出す。あくまでも荘厳さは保ちながら、曲は静かに終わりに近づいた。女声ソロ2部と混声4部合唱がだんだんと高らかに歌い上げ、クライマックスを締めくくる・・・。かと思いきや、パイプ・オルガンに、鐘まで動員され、最後は華々しいラストを迎える。全部いちどきに聴いたあとの、音の満腹感は相当よいものだ。

マーラーは、よく「夏の作曲家」といわれる。カッセル、ライプツィヒ、ブタペストやハンブルク、そして最後はウィーンの歌劇場と渡り歩き、オペラの指揮者として多忙な日々を送っていた。夏の間だけ、オーストリアの巨大な2000m級のアルプス山系を望む風光明媚なザルツ・カンマーグート近くのシュタインバッハというところの山荘にこもって、作曲を続けた。秋や冬の多忙なときに思いついたメロディーを書き留めていて、それを、夏になるとオーケストラ曲にまとめあげ、夏が過ぎようとすると、続きはまた次の夏へと・・・。夏の間だけ、作曲家に集中していたので「夏の作曲家」といわれている。

山荘はハンブルクやウィーンといったマーラーのオペラの仕事をしていた都会と違って、聴こえてくるのは、農夫と牛のカウベルの音くらいで、まったく静けさそのものだったという。マーラーはボヘミアで過ごした子供の頃をよく思い出していたという。街を回ってくる辻音楽師たちの、少し古ぼけた音のした手回しのオルガンの音楽や、父の営む造り酒屋の働き手たちが集まっては歌っていた民謡、街を勇壮に行進した軍楽隊のマーチや葬列の悲しいメロディーなどをよく思い出していた。これもマーラーの作曲に役立った。

また、マーラーはオペラの指揮者だったから、オーケストラの楽器がどんな使われ方をしたらより効果的なのかをよく知っていた。自分が作曲すれば、どんな場面で、どんな感じになるか、どんな楽器、歌を組み合わせれば、どう鳴るのかをよくわかっていたということもあったのであろう。

演奏は、インド・ムンバイ出身の録音当時38歳の若手指揮者だったズービン・メータ(1936年~)、オーケストラはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団。1975年2月、ウィーン・ゾフィエンザールでの録音で、英デッカが行ったアナログ録音の最高期の名録音だ。メータにとっては、本作品がマーラー作品への初挑戦であり、このアルバムはメータが指揮者として不動の地位を築くものとなった。本作はアナログ時代から名録音として名高く、今に至るも決定盤の呼び声が高い。特に、ウィーン・フィルの誇る金管楽器群は、どこまで大音量になっていっても、決して音が荒くならず、柔らかでしなやかでそれでいて煌めきをみせている。

「復活」をこの1週間ほど、本稿を書くために、久しぶりに何度も聴き込む機会を得た。私の感想は、マーラーは「エスニック料理に似ている」ということだった。香りの強いパクチーや、羊の肉の串焼、そこにかける甘いソース。唐辛子をふんだんに使った、普通のカレーに比べたら20倍はあろうかと思われるカレー、ピリッとした辛さの刺激をむしろ積極的に味わうような。

マーラーの音楽は、途中に何度も、まったく雰囲気が変わる。鳥のさえずりや牧歌的なゆったりしたメロディーを味わうかと思うと、暗転し、空には雷雲、稲光、急激な大雨がたたきつける。かと思うと、遠くから軍楽隊の行進や葬列が聴こえてきたり、爆音のような金管楽器の分厚い咆哮に見舞われたりする。この突拍子もない、つながりこそが、マーラーのもっている特徴だと思えてくる。次々に変化し、次々にやってくる。何の前触れもなく、唐突に現れ、また唐突に消えていく。録音当時38歳の若手指揮者だったメータが、作曲当時34歳だったマーラーの交響曲第2番「復活」を録音したのである。インド出身の指揮者メータとウィーン・フィルが紡ぎ出すメロディーが、どこかヨーロッパというよりもむしろ、アジアを思わせる不思議なメロディーとあいまって、エスニック的、刺激的なのである。

 

(文/野村和寿)

雑誌編集者を長くつとめ、現在は校閲者。1975年にカール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本公演のブラームス交響曲第1番の最終楽章で、鳥肌が立ち、帰り道をさまよった経験を持つ。爾来、クラシックを生涯の友として過ごしてきた。編集者時代、クラシック以外のロックやジャズといったジャンルのアーティストと交流を深めるうちに、クラシックと、楽しさにおいて何も変わらないことに確信を持つ。以来、ジャンルを取り払って、SP盤からハイレゾまで、未知なる音の発見の喜びを日々捜している。また無類の古いカメラ好きでもあり、特にドイツの光学製品に魅せられ、ライカとそのレンズの蒐集に執念を燃やしている。

 

 

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