高音質ハイレゾ名盤

2017年8月2日

「ルビーの指環」含む空前のヒットアルバム

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完成度の高いサウンドは、リヴァイヴァル人気の“シティポップス”のお手本!
寺尾聰『Reflections』

人気俳優が歌も唄ってレコード・デビューする。日本の芸能史では当然のことのように行われてきた。石原裕次郎や小林旭などのように、歌手オンリーの本職を上回る成功を収めたスターもいる。ぼくが大好きだった大原麗子のように大ヒットには及ばなかったが、マニアなら手に入れたいアルバムを残している人もいる。

1950~1960年代が石原裕次郎や小林旭の時代だったとすれば、1970~1980年代に成功を収めた人気俳優としては中村雅俊、寺尾聰が忘れられない。中村雅俊は「ふれあい」、寺尾聰は「ルビーの指環」というメガ・ヒットを放っている。本誌のルーツである『FMレコパル』でふたりをインタビューしたのも良い思い出だ。

中村雅俊が俳優志望を原点にしていたのに対し、名優 宇野重吉の息子として生まれた寺尾聰は、そもそもがミュージシャン志望だった。グループサウンズ(GS)の黄金時代、「いつまでもいつまでも」を大ヒットさせたザ・サベージでベースギターを担当していた。ザ・サベージ脱退後は、三保敬太郎のザ・ホワイト・キックスに参加している。その後、俳優としてキャリアを積み、1981年に全曲、作曲を手掛けて世に送り出したのが本作だった。「ルビーの指環」のシングル・ヒットも手伝って、本アルバムも空前のヒットとなった。

本作には個人的な思い出も深い。全10曲中、3曲の作詞が松本隆。7曲は有川正沙子が作詞した。有川正沙子は本作をきっかけに、シティポップスの人気作詞家となった。思い出というのは、有川正沙子さんのことだ。1970年代後期から1980年代、『FMレコパル』は驚異の売り上げ部数を誇っていた。メインライターだった大伴良則氏とぼくは、“PINKTANK”というオフィスを設立した。当時の読者の方は、ライターのクレジットに“PINKTANK 大伴良則&岩田由記夫”とたまに記されていたことを覚えていてくれるかも知れない。

大伴氏とぼくがオフィスを作るという噂が立った時、当時のメジャー・レーベルRCA(山下達郎、竹内まりやなどが在籍)の洋楽部で活躍していたYさんという女性が、無料でいいから、ふたりのために電話番をしてあげると言ってくれた。かくして、YさんはPINKTANKの最初の電話番となった。Yさんは事務所でいつも詞を書いていた。まだ無名で、有名シンガーソングライターのゴーストライターなどをしていたり、将来のために詞を書き溜めていたのだ。このYさんこそ後の有川正沙子さんだった。だから、大伴氏とぼくの事務所で書き溜めていた詞の一部が、本作にも入っているかも知れないと考えると楽しい思い出だ。もちろん、売れっ子になった彼女はすぐに事務所から旅立って行った。

本作のプロデュースは寺尾聰自身と井上鑑が担当している。名キーボーディストでアレンジャーの井上鑑は、大瀧詠一に愛され、彼のサウンドに欠かせない存在で、本作も全曲彼のアレンジだ。その他、ギターに松原正樹、ドラムスに林立夫、上原裕、パーカッションに浜口茂外也など、当時の超一流セッションメンが加わっていた。レコーディングも9か月かけられ、サウンド的な完成度は相当に高い。現代のテレビタレントが、ちょっとしたアルバイト感覚で簡単にデジタル録音した音源とは異なり、細部までプロデューサー、井上鑑のこだわりが感じられる。

当時のアナログLPは流行していたドンシャリ(高域、低域を強調した音作り)傾向だったが、分離が良かった。スキっとした爽やかな都会志向のサウンドだった。リマスタリングしたものをハイレゾ化した音源は、かなり当時のアナログLPに近い、伸びを感じさせる音質に仕上がっている。特に当時の名ドラマーふたりを配した低域部の安定感は抜群だ。ハイレゾ音源だとCD以上にそのことが伝わってくる。最近、リヴァイヴァル人気のシティポップスのお手本のような音質と思う。

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

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