高音質ハイレゾ名盤

2017年7月19日

時代を追い抜いていたB・ウィルソンの感性

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数々の伝説をもつ名盤、重要な細部の楽器の音もハイレゾは鮮やかに聴かせてくれる
ビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』

アメリカ、イギリス、日本などロック/ポップスを聴く人口が多い国では、入門者やマニアのためのガイドブックとして“ロック/ポップス・ベスト100アルバム”的な内容の本が、しばしば発行される。ベスト100の選者は、音楽評論家、音楽誌編集者など、音楽を聴き、紹介することを生業としている、いわゆる聴き手のプロが多い。そういったガイドブックの多くで、必ずベスト5に選ばれる、言わばプロが選んだ超名盤が、本作『ペット・サウンズ』だ。

1966年5月16日、アメリカ本国でリリースされて以来、あらゆる伝説、エピソードが、それこそ何万回と紹介されてきた。例えば、ビートルズのプロデューサーだったジョージ・マーティンは、「『ペット・サウンズ』なくしては、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は生まれなかっただろう」と発言しているし、生前、ぼくがインタビューしてこの発言を確認した時もそのことを認めていた。ポール・マッカートニーは、かつて「いろいろな意味において打ち負かすことのできない名作だった」と語っていたが、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』50周年記念盤の発売された今年、『ペット・サウンズ』との関連は否定するような発言をした。とにかく、エピソードにするだけで本が何冊も書けるくらい、本作については語りつくされている。

ぼくがリアルタイムでこのアルバムを初めて聴いた16歳の時には、すぐに名盤だとは思えなかった。というか、1966年、まだロックン・ロールの歴史は浅く、ロックという言葉も一般的でなかったし(ポピュラーと呼ばれていた)、名盤という概念も無かった。第1の感想は、それまでのビーチ・ボーイズのいわゆるサーフィン・ミュージックとまったく異なる類のサウンドと思ったことだった。

次に何回か聴き込むうちに、何度聴いても飽きない、魂を洗ってくれる音楽と思うようになった。情報自体がほとんど無かった1966年、ドラッグ中毒になり、精神的に参っていたブライアン・ウィルソンが、たったひとりでこのアルバムを紡いで、その苦労がどれほどのものであったかなど知りようが無かったのだ。

アメリカでも発売中止になりそうになったり、発売されても、それまでの作品に比べてヒットしなかったのも事実だ。だが、年を重ねるごとに名盤度が上がり、今ではロック/ポップス史に残る超名作となっている。正直なところ、発売当時はブライアン・ウィルソンの感性に追いついている人が少なく、時代が何年、何十年かけて、このアルバムに追いついたのだと思う。

ビーチ・ボーイズ名義になっているが、レコーディングは、ハル・ブレイン、ラリー・ネクテル、ドン・ランディ、ジム・ホーンなど当時のロサンゼルス周辺の一流セッションメンたちが起用され、ビーチ・ボーイズのメンバーは演奏していない。後でコーラスなどをオーヴァーダビングしただけだ。録音は、4チャンネルで、ほとんど一発録りだった(これも1970年代に入って知ったことで、この複雑な音色が一発録音と聞き驚いた)。

商業上の理由で電気処理したステレオ盤が発売されたが、1960年代ポップスの常としてブライアン・ウィルソンの描いたのはモノーラル・サウンドなので今ではモノで聴くのが常道だろう。ハイレゾ音源も当然モノーラルで、このアルバムで重要な細部の楽器の音が、CDより勝っている。「ヒア・トゥデイ」の不思議なベースライン、「駄目な僕」のアコースティック・ギターやテルミン、タイトル曲の当時では珍しいエレキ・ギターのフェイズ音など、ハイレゾ音源は際立たせて聴かせてくれる。ヘッドホンよりはスピーカー、それもできるなら古いアルテックやJBLで聴いてみたいサウンドだ。このアルバムのマニアである山下達郎がかつて記したライナーノーツは、ファンは必読だろう。

 

※e-onkyo music、moraとも、この「Pet Sounds[Mono & Stereo]」(flac 192kHz/24bit)が2415円で購入できるプライスオフキャンペーンを実施中(通常価格4830円。2017年7月24日まで)。

 

(文/岩田由記夫)

東京生まれ。ピンクタンク代表取締役。音楽、オーディオ評論家、音楽プロデューサー、DJなど。6歳でエルビス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」に影響を受ける。1970年になると講談社の記者を経て、週間プレイボーイ、FMレコパル、ミュージックライフなどに執筆。FM&AM局の制作プロデュースやDJ、そしてレコード会社の経営アドバイザーも務める。また1980年代に入るとFM東京、ラジオニッポン、NHKなどでDJとして活躍。さらにCDや映像の製作までこなす多彩ぶり。現在はbayfm「ミュージック・インシュランス」(オンエアー日/毎週日曜日、午後11時00分より)を担当。主な著書に「僕が出会った素晴らしきミュージシャンたち」「フォーク」などがある。

 

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